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「それは……知らない、けど。」
自信を無くした心が声を急激に弱々しいものにする。なんでこんなことになったんだろう。目覚めたら知らない場所にいて、姿も変わっていた。意味が分からなくてうろうろして襲われて、助けられて……。
ああ、私って馬鹿だ。冷静になって自分が置かれている状況をよく考えてみて、顔に熱が集まるのを感じた。仮にも恩人に怒鳴ってしまったんだ。
「……ふむ、お前は我に喧嘩でも売りに来たのか?」
鋭利な刃物を突き付けられているような感覚に一瞬息が止まった。違う。喧嘩なんか売りに来たんじゃない。
「違、います。さっきは声を荒げてすみませんでした。」
本当に尋ねたいことがあるだけなんです。俺がそう言うと、頭上から低い声が降ってきた。
「……尋ねたいこととは?」
どうやらやっと聞いてくれるようだ。
「ここは、何処なんでしょうか?」
一瞬辺りが静まりかえる。何時の間にか自分に向けられる視線が鋭利なものから好奇なものを見る目に変わっていることに気づいた。体も何時の間にか軽くなっている。俺は恐る恐る顔を上げてみた。
「ここは南にある入らずの森。高濃度の魔素のお陰で"人間共は"この森に足を踏み入れた瞬間、体の内部からどろどろに溶けて無くなる。」
美しい赤と目が合う。全てを見透かされてしまいそうな程に澄んだ赤なのに、どこか濁っているような気がした。そして、嫌に人間共のところを強調してきたが、この際聞こえなかったことにした。
「魔素って、何ですか?」
「ふざけているのか?」
これっぽっちもふざけてなどいないのに、とんだ誤解だ。誤解だということを口にしようとした時、それを遮るように狼の説明が始まった。どうやら、説明してくれるようだ。
「魔素は世界中に満ちていて濃度によっては危険な場合もあるが、基本的には無害で空気のように見えんものだ。」
「なんで、その、濃度が高いと溶けて無くなるんでしょうか?」
まだあんのかよ、とでも言いたげな顔で小さく溜息を吐いた狼を無視して回答を待つ。なんだか段々図太くなっている気がした。
「生物はその個体によって耐えうる魔素の量が決まっている。お前は分からんがな。」
成る程。どうやら、当然ながらまだ疑われているようだ。
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