第二章

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「はい、お願いします」 青年はいちいち、眩しいくらいの笑顔をこちらに向けて返事をする。それに引き換え、俺はどうにも元来から愛想というものが無いので、真顔でも不機嫌そうだと言われてしまう面相なもんだから、側からみたら、随分対照的な二人だなと思われるだろう。 「それにしてもあんた、若いのにこんな古臭いボロアパートじゃ嫌だろう。もうちょっと探せば、他にもっといいとこもあるだろうに」 このアパートは古く、全体的に煤けていて、薄暗い印象がする。階段や柵などの鉄部分はあちこち錆び付き、塗料は剥げている。 実際に他の住民は、年金で細々と暮らしている爺さん婆さんばかりで、家賃は他より多少安いのかもしれないが、自分が若ければ、もう少し高くても他を探すだろうって、場所だ。 「いいえ、僕は好きですよ。この趣きがある感じ、素敵だと思います」 趣きねぇ、物は言いようだが、俺から言わせてもらえば、ただボロいだけだろう。     
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