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環和はこっくりとうなずいて後ずさった。
響生が入ってきたとたん、抑えきれなくなった気持ちはドアが閉まった音を合図にして環和を突き動かした。
「響生……」
環和はつぶやきながら躰をぶつけるようにして響生に抱きつく。
煙草の香りが鼻腔をくすぐり、環和に纏わりついた。
「環和」
「うん」
「おれと別れてほしい」
ほっとして響生に寄りかかった躰が一瞬にして強張る。
要求、とさっき感じたとおり響生にあるのは、環和に会ったうれしさでも、期待に応えようとする頼もしさでもなかった。
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