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京香に目を転じれば、若干、上目遣いでカメラに視線を置いている。 わずかに斜め方向からにっこりする顔は完璧なんだろう。 “だろう”というあやふやな云い方は、やはり美帆子に似ているからかもしれない。 顔ではなく、罠を仕掛けていざなうハンターのような雰囲気が同じなのだ。 わたしは特別でしょ、という押しつけがましさは嫌いだ。 「安西(アンザイ)さんの好みの恰好ってどんな感じですか?」 取材者と話す合間に、京香がカメラマン――安西に呼びかけた。 罠の第一段階、触手を伸ばしたといったところだろうか。 安西はなんと答えるだろうと耳をすましていると―― 「好みは特にない。それに、個性だろう? 意見を押しつけるつもりはないな」 ゆったりとした口調は親しみやすいと感じさせる。
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