1.

13/24
前へ
/820ページ
次へ
女性は三十歳前後だろうか、京香に見せていたにこやかな笑顔とは真逆に、つんとした冷ややかさがある。 おまけにほかの視線も環和に向かってくる。 あいにくと、ばつが悪くて顔が上げられない性質(タチ)ではなく、環和は自分に集中する視線に立ち向かった。 「水谷さん……」 店長の財前(ザイゼン)が怒るよりも困り果てた様子で呼びかけたが、それを掻き消すような甲高いヒール音が近づいてきて、圧倒されたように口を噤んだ。 女性は環和の正面に来て立ち止まった。 「あなた、本当なら見物なんてさせないのよ。この店が好きって云う京香ちゃんの好意で許可してるのに。そうじゃなくても、静かに見守るのがマナーだわ。それを……」 「青田(アオタ)さん、おもしろいじゃないですか」 と、青田というらしい女性の言葉をさえぎったのは、安西の声に違いない。 「その子から京香さんに似合う服を身立ててもらえばいい。京香さん、どう?」
/820ページ

最初のコメントを投稿しよう!

825人が本棚に入れています
本棚に追加