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女性は三十歳前後だろうか、京香に見せていたにこやかな笑顔とは真逆に、つんとした冷ややかさがある。
おまけにほかの視線も環和に向かってくる。
あいにくと、ばつが悪くて顔が上げられない性質(タチ)ではなく、環和は自分に集中する視線に立ち向かった。
「水谷さん……」
店長の財前(ザイゼン)が怒るよりも困り果てた様子で呼びかけたが、それを掻き消すような甲高いヒール音が近づいてきて、圧倒されたように口を噤んだ。
女性は環和の正面に来て立ち止まった。
「あなた、本当なら見物なんてさせないのよ。この店が好きって云う京香ちゃんの好意で許可してるのに。そうじゃなくても、静かに見守るのがマナーだわ。それを……」
「青田(アオタ)さん、おもしろいじゃないですか」
と、青田というらしい女性の言葉をさえぎったのは、安西の声に違いない。
「その子から京香さんに似合う服を身立ててもらえばいい。京香さん、どう?」
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