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抱きついたまま呼吸をするのも忘れて、環和は凍りついたように静寂に包まれた。 何もないという無感覚のなか、こめかみにノック音が繰り返されている。 響生の鼓動に違いなくて、それは乱れることなくひどく規則正しい。 「環和」 環和を受けとめることもなく、気を付けの姿勢のまま脇に垂らしていた腕が、環和の肩をつかむ。 そうして、環和の望むこととは真逆に、剥がすようにして躰が引き離された。 響生の瞳が何を映しているのか、見上げる環和からは高すぎて捉えられない。 恋人と云えるようになって、不意打ちでキスに襲われることも多かった。 いまは恰好のシチュエーションのはずなのに、響生は身動き一つしない。
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