魔法よ解けないで。

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「意見がないなら、私の一存で演劇にします。演技で何かを表現する。それは素晴らしい事よ?」 ありきたりな意見。 平行線の一途を辿る、討論。 そんな均衡を破ったのは、担任であり演劇部顧問である、先生の一言だった。 「えーーーーーーっ!!」 「演劇とか、恥ずかしいよ~!」 「俺……やったことないし!」 口々に教室内を飛び交う、不満の数々。 そんな雰囲気を壊したのは、『彼』のひとことだった。 「でも、今回はどこも演劇やるクラスないんでしょ?絶対目立つし、思い出に残ると思うな……。俺は賛成、かな」 クラスの人気者。 そして、私の幼馴染の、郁くんだった。 整った顔立ち。 運動神経抜群。 勉強は少し苦手……だけど、飾らない明るい性格で、みんなに優しい。 そんな彼が言うものだから、クラスのみんなも、少しずつやる気が出てくる。 「確かに……目立ちはするよな?」 「体育館で、単独公演?」 「そんなに、悪くなくない?」 これが、郁くんのすごいところ。 みんなが後ろ向きなことだって、郁くんが前向きなことを言えば、なんとなく出来そうな気がしてくる。 それは、郁くんがいつだって、何にでも全力だから。 「じゃぁ、決まりでいいわね?我がクラスの出し物は『演劇』にするわよ!」 次第にやる気を帯びてくるクラスの雰囲気に、満足げな担任。 こうして、出し物は演劇に決まった。 「松子、脚本頼む!……お前、こういうの得意だろ?」 郁くんが、私に言う。 私は、松子。 将来の夢は、小説家。 そして、みんなの人気者、郁くんの幼馴染。 「うん。頑張って書いてみる。……どんなのが、いい?」 「そんなに練習できなさそうだし、みんなが知ってる話がいいかな?その方が、台詞とかすぐに入ってくんじゃない?」 一度決まってしまえば、とんとん拍子で話が進んでいくのが、私のクラスのいいところ。 「わかった。みんなが知っているお話、クラス演劇風にアレンジして書いてみるね。」 私は、みんなに……郁くんにそう、答える。 今回の文化祭。 郁くんを中心にどんどん進んでいく。 それを、クラスの誰も悪く思わないし、協力している。 その理由は、簡単なこと。 今回の文化祭が終わったら……。 郁くんは、転校する。 私の知らない、遠い所へ行ってしまう。 郁くんにとっては、仲間との『最後の文化祭』。 みんな、成功させて、郁くんを送ってあげたい。 そう、思っていた。
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