強さ

3/4
152人が本棚に入れています
本棚に追加
/187ページ
「でもフユ。例えうまく事が運んだとしても、もう黙っていることは許されないぞ」 「分かってる。けど、自分がなにがいちばん大事かって考えたんだ。俺はユーリと離れたくない。ユーリがいればなにもいらない。それにユーリがユーリの権利を奪われるのも嫌だ」  最善を選んだのだとフユはきっぱりと断言した。フユは利己的でわがままな人格を演じることで、罪の重さを減らそうとしている。相手を騙すことに微塵も躊躇しないフユは、確かにあの研究所を爆破したときと同じ状態だった。  ユーリにはそれがどういうことなのか怖いほど理解することができた。本能的な自分を意図的に表へ出すことで、罪悪感に気づかないふりをする。かつてユーリ自身が前線での戦闘で負傷した仲間を置いて撤退したのと同じように、もうひとりの自分を作動させる。素直でずる賢い自分を認めることで、自分自身を守っているのだ。  揺るがない意思があるからこそ、それができる。  フユはきっともう壊れることはない。ユーリがそうであるように。 「キースは大丈夫かな?」 「あの人は世に憚るタイプだから。こうやってフユが時間を稼いで目立ってれば自分でなんとかするはずだよ」  表で小さく気配が波立った。ブラインドの隙間から下を覗く。     
/187ページ

最初のコメントを投稿しよう!