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ともに生きる
「で、それは学会に出すのか?」
「まさか。ただの備忘録だよ」
今となっては骨董品よりも珍しい、暖炉の火が柔らかな色を振りまいている。暗闇に支配された外は、朝になれば一面の白に取って代わる。
ソファに腰をかけ、木で作られた家具に囲まれたユーリは、手のひらサイズのノートにペンを走らせる。膝の上では昼間の雪かきに疲れたのかフユが寝息を立て始めていた。
「それはそうと、キース。あんたは大丈夫だったのか?」
「それだそれ! 相談もなしにあんな大事に巻き込みやがって」
床に敷いたラグに胡座をかいたキースが、琥珀色の液体を煽った。アルコール度数の高い地酒を水のように飲み干すキースを呆れ顔に眺める。文句をつけながらもどこか楽しんでいる様子に、内心ではホッとしたものの、それを表に出すのはどこか癪だった。
フユがとった策は背水の陣ともいえる捨て身のものだった。
「まさかこの嬢ちゃん自身が機密をバラまくとはなぁ……」
「最重要部は隠してた」
「報道陣の扱いも心得たもんだったぜ? 権力者どもが目の色変えて欲しがるわけだ」
「それが無尽蔵に作り出せるとなれば、な」
「よかったのか?」
「俺が決めることじゃない」
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