152人が本棚に入れています
本棚に追加
「なぁ、前にも言ったと思うが……雪解けまでにはここのセキュリティをなんとかしろよ。いくらおまえの鼻が猟犬並みにきくといっても、ひとりでできることには限度がある」
「わかってる。ただ、フユを閉じ込めてしまうような環境にはしたくない」
メイソン・ハーヴェイは姿をくらませていた。第一級指名手配の対象となった今も捕まったという報せはない。
本来ならユーリたちは中央シティに住むのがいちばん得策ではあったのだ。
それでも――。
「できる限りの最善を尽くすさ」
キースが肩をすくめた。その手が、かつてのようにユーリの頭を撫でる。
「ほら、姫さんの機嫌を取ってきてやれよ」
にやにやと廊下を指したキースの腹に軽く拳を入れた。キースが大げさにうずくまる。今なら見えてない。ユーリはその情けない姿勢に直角の礼をした。
「邪魔するなよ」
冗談めかして釘を刺すと、ユーリはキースを置いて部屋をでた。
ひんやりとした廊下を進み、寝室へと向かう。
「フユ?」
明かりを消した室内で、ベッドがこんもりと盛り上がっている。
シーツの山がごそごそと動いた。
「ユーリ……あのさ……」
窓からは月明かりが差し込んでいる。逆光になったフユはどんな顔をしているのか見えなかった。
「その……よかったのかな……?」
「なにが?」
「その……俺もタチバナって……」
語尾がどんどんか細くなった。今は二人だけだ。
最初のコメントを投稿しよう!