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ユーリはフユの顔を挟むと、上を向かせる。月明かりがフユの顔を浮かび上がらせた。その顔はどこか不安げに揺れている。
二つの黒曜石が埋め込まれた目を覗き込み、口づける。
フユはもう怯えない。
「生体登録が済んだらパートナー申請をするから」
それは男女間の婚姻に相当する、同性間の手続きだ。もちろん、相手は機密のかたまりともいえるフユで、すんなりいくとは限らない。
「……聞いてない!」
フユが真っ赤になって抗議する。
「だって、選択させるつもりはないから」
フユが口をパクパクと開閉させた。
「嫌だなんていわせない」
黒曜石から光る雫がこぼれ落ちる。しなやかな二本の腕が、ユーリの首に絡まった。
「フユを守るための一番の権利は譲れないよ」
フユの腕に力がこもる。
一生分の痛みを知ったフユは、これから幸せなものだけに囲まれていればいい。
「大丈夫」
腕の中で、フユが頷いた。
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