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「ふぅーん。
じゃあそいつ、視えるやつなんだ」
明日香さんが、長い髪を指でもてあそびながら、さして興味がなさそうに言う。
霊であるわたしたちの姿は、
ほとんどの人間には見えない。
それでもごくたまに、
『視える』人間がいる。
姿は見えないけど気配は感じられる人、
ぼんやりと輪郭だけはとらえられる人、
生身の人間と同じように姿かたちをはっきりと認識できる人、
人によって程度はさまざまだ。
ボビーさんの姿が見えて
会話までできたということは、
彼はかなり強い力の持ち主だということになる。
「中高生の不良グループの
金髪少年ですか。
我々を知っているということは、
少なくとも一度はここに来たことがあるということですが…」
「そんならやつら、いっぱい来るもん。
いちいち覚えてないよー。
あ、ほら今日も。
噂をすれば」
吉澤君がぼやいたのとほぼ同時に、
病院の外から
けたたましいエンジン音が聞こえた。
割れた窓から下を見てみると、
派手なペイントのバイクが3台、
玄関の前に停まったところだった。
「ほーんと、生きてる人間て物好きね。
わざわざ怖がらされに
こんな山奥まで来るなんて。
よっぽどヒマなのね」
「なんて言いながら、
明日香さんが一番ノリノリで
おどかしてるじゃないっすか。
ほら、ボビーもカモン!
けっこう楽しいよ☆」
なんだかんだと言いながら
嬉しそうに病棟を出て行く3人に、
高田さんも
やれやれ、と首をすくめながら
ついて行く。
わたしはいつものように、
みんなから離れて
屋上に行くことにした。
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