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病棟を抜けて、屋上へと続く階段を登っていく。
登る、とは言っても、
霊体のわたしは常に地上から数センチ浮かんでいるので、
ただよう、と言ったほうが正しいのかもしれないけど。
いつのまにか、わたしの足元に猫の霊たちが集まり、
じゃれるようにまとわりつく。
はじめは一匹だけの迷い猫の浮遊霊だったけど、可愛がっているうちにどこからともなく集まってきて、こんなに数が増えてしまった。
明日香さんが動物アレルギーで猫たちを毛嫌いするので、わたしがひとりのときにしか寄ってこない。
いまさら、アレルギーとか関係ないと思うけど……
ドアを抜けると、夏の星空が広がっていた。
わたしが死んでから30年。
山のふもとの街には新幹線が通り、
東京にしかなかったカフェのチェーン店や
ドラッグストアがオープンし、
街並みもずいぶん変わったらしい。
地縛霊のわたしは
病院の外に出ることができないので、
吉澤君や明日香さんに話を聞いただけなのだけど。
街が明るくなったせいか、
星もずいぶん減ってしまったように見える。
でも、こうして顔を上げて空だけ見ていると、
何にも縛られずに
どこにでも飛んでいけそうな気がする。
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