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声を出しちゃだめだと思うほど、
わたしのなかの恐怖心が、
8月の蝉のように一斉に
金切り声をあげる。
怖い怖い怖い嫌だやめて
助けて誰か助けて
血がにじむくらいくちびるを噛み締めて、
悪夢のような時間をやり過ごす。
彼は、しばらく待合室をうろうろしたあと、今は受付カウンターの中をのぞいているようだった。
このまま、右に曲がって出て行って欲しい。
祈るような気持ちで息を殺していると、不意に彼の気配が消えた。
あきらめて次の病棟を探しに行ったのかもしれない。
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