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電灯の音、
蛾がはばたく音、
病院の外から聞こえる虫の声。
気配は、ない。
くちびるの力をゆるめて、おそるおそる息を吐き出した、その時だった。
「みぃツケたあぁぁぁ」
目の前にぶら下がるのは、今にも水がしたたり落ちそうな湿った黒髪。
その先をたどってゆくと、天井から逆さ吊りになってわたしを見下ろす
彼の顔があった。
紫色に変色したくちびると
体温を失った青黒い肌。
血走った目、骨が折れて変形した鼻。
おかしなかたちに曲がった指。
「いっ、いっいっいっ、いやぁああああああ!!
わたしほんとに、怖いものとか無理なんですーっ!!」
「てあんたも幽霊だろうが!!」
泣き叫ぶと同時に後ろから頭を激しく突っ込まれ、わたしはソファに突っ伏した。
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