夢では幸せだったね

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僕は大学生になる。 筈だった。 受験を目前に予定が変わった。 普段からバラバラだった家族。 家に誰が居るか。 誰が何日不在か。 気にかけるだけ無駄だ。 団欒など不要だ。 望む以上に贅沢な衣食住がある。 そんな風に生きていただけ。 何を悩む必要がある。 やりたい事を、思う存分出来る環境。 そんな環境に生まれる事も、才能だ。 僕は、なんと言われたって構わない。 人を見下し自分の為だけに生きていた。 そんな自分を改めるべきなのか? 後悔して、悲しみ、苦しむべきなのか? どうだろう。 何故か僕には... 不安や焦りも無かった... この時も感情は無かったのを覚えている。 記憶力だけが 僕を未来に導く術だったのかも知れない。 何事も忘れない。 それが僕を正気のままに してくれていたのかも知れない。 どうして僕の予定が変わったのか... 大した事じゃない。 父が死んだ。 きっと、普通なら "大した事" なのだろう。 父がを自殺した。 きっと、普通なら "嘆く事" なのだろう。 僕は違った。 何故か... きっと周りの環境や 僕自身の人間性が原因だろう。 お葬式など人前にいる時 母は、馬鹿みたいに取ってつけた 悲劇の未亡人を気取った。 兄や姉は、零れもしない涙を ハンカチで拭っていた。 家に帰ると愚痴の嵐だ。 きっと父が 多額の保険金でも残して、 この世を経ったなら 文句どころか 少なからず嘘でも 母や兄弟の涙ぐらいは望めたかも知れない。 だが父が残したのは莫大な借金だった。 ギャンブルで破産していのだ。 破産したことを知ったのも死んでからだ。 遺産放棄と家の差し押さえ。 金目のモノは全て。 今まで有った全てが無きものになった。 全てに置いて父任せだったが故の末路だ。 僕は、いつかこうなるだろうと密かに思っていた。 ただ思った以上に早かっただけだ。 攻めて大学くらいは出たかったと ため息を一つ着いた程度。 父が死んで僕が思ったのは、 大学へは行けなくなった。 それ一つだった。 それ以上も以下もない。 表情一つ変え価値もない出来事に過ぎなかった。 他にも生きる術はある。 貧乏人でも生きてる世界を僕は知ってる。 順応して生きればいい。 家族と決別するチャンスだ...と。
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