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音にかき消されてしまって、叔父が何を歌っているのかは聞き取れなかった。曲調は嫌いじゃない。けれど、どこかで聞いたことのあるような曲だ。
音に紛れて聞き取れた歌詞は「夢のカケラを集めてどこまでも行こう」だった。叔父さんはアラフォーだ。
いつまでも夢を追い続けて歌い続けることは素敵なのか、はたまた虚しいのか。中学生のスグルには解らなかった。
「俺ら『マイノリティ』って言います。俺らは基本MCとかかったるいことしないんで。適当に、楽しんで」
挨拶は適当に済ませて、曲を進める。この気だるい感じがカッコイイと思っているらしい。スグルは飲み干したコーラのグラスを手の中で弄びながら、曲が終わるのを待った。
「よお、スグル、来てくれてたんだ」
自分の番が終わり、フロアに現れた叔父さんは、やり切った顔で、スグルに手を振った。バーカウンターでビールを買うと、傍らにいた女の肩を抱き、スグルの隣に腰を下ろした。
「来てくれてた」って「ライブやるから来いよ。どうせ夏休みだからヒマだろ?」ってLINEしてきたのは叔父さんだろ? しかも既読スルーしてたら、わざわざ家にやって来て、「シカトするとはいい度胸してんな」ってこわもてで脅された。
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