すこっぷ

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「うわぁあああああっ!!!」  スグルは青い稲の葉が広がる田んぼのあぜ道を、叫びながら、全力疾走で自転車を漕いでいた。  青臭い緑の匂いに、後頭部に容赦ない夏の日差しが照り付け、汗が滝のように吹き出て来る。昨晩のストレスを発散させるべく、腹の底から大声を出す。   一面に広がる緑色の絨毯の先に、ぽつんと平屋が建っていた。   スグルは平屋の前に自転車を止めると、庭先で麦わら帽子をかぶって、草むしりをしていた爺様に、挨拶をした。 「みんな揃っとるわ。帰りにキュウリ持って行きんさい。今年もいっぱい獲れたから」 「おお、こえぇ(痛いの意味)」と腰を叩きながら、立ち上がった爺様に会釈をして、スグルは平屋の隣に建つガレージに向かった。  シャッターを持ち上げると、「おぉ、スグル待ってたぞ」と、3人が声を揃えて、顔を上げた。彼らはスグルの同級生で、軽音部のバンド仲間でもある。  ここは仲間の一人、チハル(ギター担当)の家のガレージだ。  チハルの爺様は80歳を過ぎた高齢者で、運転免許証を返却し、車を売ったので、ガレージにスペースが出来た。車を乗る彼の父親が、仕事に出かけている平日の昼間であれば、ガレージを好きに使ってよいという条件で、バンド練習に使わせて貰っていた。
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