「傘を差すひと」谷崎トルク

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××× 「ヤクザをやめるのには金が要る」 「知ってるけど」  リビングにある扇風機は風が強くなったり弱くなったりしている。壊れているのだろうか。全然、涼しくない。 「ホントにやめんの? つーか、やめれんの? 殺されたりしない?」 「金があればやめられるし、それを元手にして新しい会社も作れる」 「ふーん」 「おまえ、2016年から来たんだろ。それを利用してなんかできないか」 「なんかって言われてもなー、こっちの世界では俺、七歳だからさ。あんま記憶ねぇんだよな。競馬とか知ってたら稼げんだけど」 「その当時、流行ってたものとか思い出せないか?」  その言葉を聞いてふと思いついた。当時、流行っていたゲーム。音楽。漫画。数々のヒット商品。  俺は思い出したものを蓮二に伝え、蓮二はそれを参考に株を買いまくった。最初は上手くいかなかったが徐々にコツをつかみ出し、それが功を奏して蓮二は纏まった金を手に入れる事ができた。罪は犯していない。ちゃんと稼いだ金だ。その金で炊飯器と少し豪華なシロのケージも買った。  幸せだと思った。怖いくらい全てが上手くいっていた。このままお互いヤクザをやめて、共に働き、シロと三人で仲良く過ごす。ちょっと歪だけれど、ちゃんとした家族になる。幼い頃からの夢が叶いそうな気がしていた。
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