ハイヒールをもう一度

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「美桜、準備出来た?」 「待って、もう少しなの。」 「わかった。」 悟は、美桜に声を掛けて、了解の意を告げると、ベビーチェアに座って、スプーンを振り回している小さな女の子に笑いながら話し掛けた。 「ママは、まだなんだってさ。もう少し待ってような、望結(みゆ)」 「…まぁま♪」 「うん、そうだな。ママな。」 そう言って、望結の口を、うさぎ柄のタオルでそっと拭いてから、抱き上げた。 望結は、抱かれて嬉しいのか、きゃっきゃとはしゃいでいる。 「ごめん、待たせて。」 少しして、部屋から出てきた美桜は、綺麗な濃紺のスーツを着ていた。 「どう?変じゃない?」 「ああ、大丈夫。似合ってるよ。」 「ありがとう。嬉しい。」 そう言ってから、悟の頬に、チュッと軽いキスをした。 悟の腕に抱かれている望結にも、同じ様にキスをしてから、持ってるスプーンをそっと取って、流しへ持っていく。 「なあ、望結は、このままでいいのか?」 「うん、大丈夫。すぐ汚しちゃうでしょ。だから、車の中で、着替えさせるから。」 「OK。じゃあ、車のエンジン掛けてくるよ。」 望結が弄ってずれてしまった眼鏡を、いつものように、指で持ち上げると、キー持って先に出ていった。 「さて、望結ちゃん。あなたもお出掛けよ。今日から、保育園デビューなんだからね。」 事前に用意するように言われていた保育園で必用な諸々の品物と、車の中で着替えさせるものを入れた手提げを持って、玄関へ向かうと、悟が荷物を取りに戻って来ていた。 「荷物はこれだけだよな?」 「そう。それだけ。…ごめん、靴履きたいから、望結を抱いてくれる。」 「いいよ。」 悟に望結を預けて、玄関で、美桜が履いていたのは、あのハイヒールだ。 「うん、これでよし。望結、ごめんね。パパに、ぶうぶ、運転してもらおうね。」 「ぶっうぶぅ♪ぶっうぶぅ♪」 車が好きなのか、出掛けることをよろこんでいるのかわからないが、望結は、上機嫌だった。
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