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「数学が嫌いってわけでもないし、先生と相性がわるいの?」 「お前がそう思うなら、そうなんだろ」  陽介はぶっきらぼうに答える。 「なによ、その態度。陽介のくせに!」  陽介は、早歩きで明日海先生の前を通り過ぎる。先生の暢気な、朝の挨拶もまるっきり無視だ。 「ねえ、陽介ってば……待ってよ」  さっきまでゆっくり歩いていてくれていたのに……陽介の背中を追うために、私は必然的に小走りなってしまう。  その瞬間、ズキンという心臓に痛みが襲った。  痛みが走ったその一瞬で、目の前は真っ暗になり……膝の力が抜けて、その場に崩れ落ちそうになる。  迫りくる地面の衝撃に耐えようと目をぎゅっとつぶると、……ふわっと温かい体温が私を支えた。  眩む目を開けて見上げると、明日海先生が慌てた表情で私を見つめていた。 「だ、大丈夫ですか?笹原さん」 「……はい、ちょっとめまいがしただけで……、大丈夫です」 「本当に?保健室に行くなら、先生が運んであげますよ?」  明日海先生は、なぜかやる気に満ちていた。 私が乾いた笑いを漏らしていると、陽介が血相を変えて走り寄ってきた。そして、私と目が合うようにしゃがむ。 「沙羅!…わるい、大丈夫か?」 「……本当、陽介のせいだからね」     
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