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陽介がこんな風に私を心配するのは、私もお母さんと同じように……遺伝性の不整脈を患っているからだ。笹原家の女性は代々心臓が悪く、私のおばあちゃんも早くに亡くなった。だから、これは私たち家族の定められた『運命』なのだと思ってあきらめている。
私も2か月に一度は必ず病院に行って検査はしているが……今は病院の先生からも『小康状態』と言われていて、私の中では絶好調も同義なのだ。
「でも、お前今日体育じゃん」
「うん。ジョギング~」
「無理すんなよ」
「わかってるって、歩くから」
「わかってんのかね、本当に」
「あはは」
本格的に遅刻ギリギリとなってしまって、私も陽介も走ることを余儀なくされてしまった。息が上がる私を見る陽介の目からは、心配の色がにじみ溢れていた。
担任の先生が入ってくるより先に教室に滑り込み、ドン!と大きな音を立ててカバンを机に置くと、千佳子はびっくりしたように顔をあげた。
「沙羅、大丈夫?」
「な、何が?」
息を整えていると、千佳子は私の背中を擦った。
「いや、体のことだけど……そんなに走ったら悪いんじゃ……」
「もう、千佳子も陽介の話真に受けすぎ!こんな運動しただけですぐ死んでたまるもんか」
「沙羅がそう言うならいいけどさ。体調悪くなったらすぐに言ってよね、今日体育あるんだし」
「はーい」
カバンの中から一時間目の数学のノートと教科書、ペンケースを取り出し、ホームルームが始まるまでうるさくなり続ける心臓を押さえていた。
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