第1章

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 それから、妻と間男が事故で死んだのは、一ヵ月も立たないうちだった。ハンドルを切りそこね、電信柱に突っ込んだのが原因だ。おかげさまで俺は多額の保険金を手にする事ができた。幸い、間男は妻の同僚だったらしく、妻の不倫が近所にバレる事はなく、気まずい思いをせずにすんだ。 「奥さん、かわいそうにねえ。赤ちゃんまで……」  お葬式のとき、何も知らない近所のおばさんに涙ぐみながら言われたときは、「いえ、ざまあ、見ろですよ」ともう少しで笑う所だった。確かに、事情を知らない者から見れば、俺は家族をなくした不幸な男だろう。だが、その二人は俺が殺したのも同じなのだ。あの時バカらしいと思いながらも女神に願ったのだから。  願いが叶う、不幸になる。相反する噂は、こういうことだったのだ。  それにしても、とそこで俺は考える。妻の正体を鏡で見せたのも、あの女神の像だろうか? だとしたら、あの女神はああいう風に人間の恨みをかき立て、知り合いの死を自分に願わせて、何をしようとしているのだろう。  もしかしたら、ミキと腹の子は、女神に捧(ささ)げられた生け贄になったのかもしれない。女神が集めた魂をどう使っているのか分からないが。  もちろん雑誌には有ったことを詳しくは書けない。結局、記事は当たり障りのない物になるだろう。そしてまた、好奇心を満たしに来た者が知りたくない事実を突き付けられるのだろう。そして、身近な者の命を、女神に捧げるのだ。
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