1章 一つ目の七不思議

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1章 一つ目の七不思議

 朝の匂い。  道場の匂い。  夏の始まり、まだ本格的な猛暑が始まる前の早朝。まだ少し冷たい空気が鼻の奥に染み込んで行く。  バシンと受け身を取る音が道場内に響く。とは言っても道場内には僕と親父の二人しかいない。まだ門下生がくるには少し早い時間だ。 「次は四方投げや。行くで」 「押忍!」  親父の宣言で次の技の練習は四方投げに決まった。  最初は僕が投げられる番だった。  僕が売り出した手刀を親父が受け止め、捌いてそのまま腕を捻っていき、僕の体は無事投げ飛ばされた。  稽古のはじめは準備運動から始まり、各関節を念入りに伸ばしてから稽古は行われる。  小手返しや一教と言う名はそこそこ有名な技だが、関節を伸ばしていないと怪我に繋がったりする。そうでなくとも、合気道は関節を捻ったりする動作が多い。  準備運動は思っている以上に大切なのだ。 「よし。ほなら次はお前が投げるんや」 「押忍!」  先ほど親父が投げたように、親父の手刀を受け止め、体を回転させて親父の腕を捻って親父の体を投げた。  親父は僕より一回り大きいが、体をうまく使えば投げることは造作もない。  それからしばらく稽古は続き、他の技についても同じように稽古を行った。
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