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そして、道場にある時計が7時を回ったところで朝の稽古は終了となった。
「そういえば・・・」
親父はふと口を開いた。稽古が終わったらいつも一人で黙って道場で座って瞑想をするはずなのだが、今日は違っていた。
「何?親父」
僕はハッとして口をつぐんだ。道場では師範と呼ぶ決まりだったのだ。
いつも稽古が終わってから会話することがなかったからうっかりしていた。しかし親父の方は僕がそんなミスを犯したことに気づいてすらいなかった。
どうやら何か心配事に気が紛れているらしい。
「門下生の莉音なんやが」
「莉音?」
「ああ。坂巻さんとこの。お前と学校一緒やったやろ」
「うん。そやけど・・・」
坂巻莉音は僕と同じ学校に通う生徒で、同時に僕の実家のこの道場の門下生でもあった。
莉音は引っ込み思案な女の子で、最初はただの基本の受け身でさえ体に力を入れすぎて固まってうまくできなかったほどだったが、最近は普通に投げ技に参加できるようになってきていた。
しかしその莉音が最近道場に顔を出さなくなっていたのだ。
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