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プロローグ
それは、運命の出会いだった。
彼女を見た瞬間、それは運命だと確信した。
それは僕が夕暮れに染まる図書館に一人たたずむ彼女。
ショートカットの黒髪からかすかに漂ってくるのは、シャンプーの香りか。机に座りながら分厚い本を読む彼女を見て、思わず見とれてしまう。
「あら?私に何か用かしら?」
彼女は一心にその姿を目に収めていた僕に気がついたのか、本から目を離して僕を見た。
「いや、そういうわけやないんやけど」
「あら?そう。ならいいのだけど」
彼女はそう言うと読んでいた本に目線を戻した。図書館には僕たちの他には誰もおらず、窓の外の風の音すら僕たちには届かなかった。まるで世界に二人きりのような気がするほど、僕はその空間を特別に思った。
「やっぱり用があるんじゃないの?」
相変わらず彼女に見とれていたままだった僕に、彼女はそう声をかけた。しかし今度は本を読みながらだった。
「いや、違うんやけど。いや、違わないかも。その・・・そうだ。その本が気になっちゃって」
せっかくだし何か話ができないかと思い必死に絞り出した答えがそれだった。
そのまま用はないと言って立ち去ってしまっては、第一印象が不審な奴になってしまうと思ったからだ。
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