そしてふたりは、

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 少年はそのあどけない顔に見合うソプラノの声で私に声をかけてきた。 「藤代修二の新刊が、今日発売だと思うんですけど、見つからなくて。どこにあるんですか?」  少年の口から出た名前に私は驚き、そしておののいた。それは知る人ぞ知る、かなりマイナーな作家の名前だったからだ。  十年に一度か二度、滅多に本を出さぬ、しかも内容はかなりトリッキーなもので、誰が読むんだこんなものと思う作風なのだが、そこがたまらない魅力なのだと一部に熱狂的ファンがついている。  かくいう私もその奇特な熱狂的ファンの一人である。  私的な動揺を隠しながら、私は事務的な営業スマイルを浮かべた。  子供と話すのは、昔から苦手なのだ。  私を知る人からすれば、お前が苦手なのは子供だけじゃないだろうとすかさず突っ込みを入れるのだろうが。 「ごめんね。その本、うちは入荷していないの」
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