そしてふたりは、

7/10
前へ
/10ページ
次へ
 バックヤードから持ってきた私物の鞄から、私はその本を取り出した。  今日、バイトへ来る前に、街の大型書店で購入してきたものだ。  帯にはおどろおどろしい字体で『十年ぶりの新作! 鬼才、藤代修二が地獄で紡ぐ鮮血の黙示録』と書かれている。  内容が全く伝わってこない、果たして売る気があるのか謎な煽り文だ。  下手をすれば藤代修二がすでに死んでいるかのように誤解されかねない。  そして恐ろしいことに、藤代修二の本は、読み終わったあとも、この本がどういう本だったのか理解ができないのだ。  きっと帯を書いた人間も、苦悩した末にこう書くしかなかったのだろう。  毎回帯を書く人間が違うので、恐らく誰もが引き受けるのを嫌がる仕事なのに違いない。  少年は、その意味不明な文句の帯が巻かれた分厚い本を、きらきらとした目で見つめていた。  普段、読書灯の下で活字ばかり追っている私の目には、眩しいほどの輝きをもった眼差しだった。 「どうぞ」
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加