そしてふたりは、

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「どうして、敬語なの」 「えっ」 「さっきまで、ばかにしたようなタメ口だったじゃん」  ばかにしたつもりはなかった。  だが、子供とどう話したらいいのかわからない私は、子供の相手がうまい後輩の女の子の真似をして接客をするようにしている。  思いがけないことを言われ、あたふたとする私に、少年はふっと笑みを浮かべた。  そちらの方がよほど小馬鹿にした態度を取っている、と思ったが、その笑顔がまるで天使のように愛らしかったので、私は即座に少年を許した。 「さっきの、撤回する。この本屋が終わってるって言ったこと。お姉さんみたいな人がいるなら、まだ終わってないね」  少年は丁寧な仕草で自分の鞄に本をしまうと、リンゴ飴を食べたあとのような赤い唇を、にっとつり上げた。 「速攻で読むよ。いつもなら、じっくり読むんだけど。お姉さんと本の感想、話したいからさ。僕が返したら、お姉さんも速攻で読んでよね」
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