そしてふたりは、

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そしてふたりは、

 夏休みへ入ると、街に子供たちが溢れ出す。  これだけの人数が、普段はあの学校という名の狭い箱の中へと押し込められ、整然と並べられた机に向かっているというのだから、にわかには信じがたい。  成長途中の、一番太陽の光を浴びなければならない彼らは、日中を日陰で過ごす。  その鬱憤を晴らすかのように、長い休みとなると彼らは大人が呆れるほど外で遊び回る。  しかし、近頃の子供はなかなか狡賢い。商店街で一番冷房が効いている店を、彼らはその独自のネットワークを使い情報提供し合っているらしい。  私のバイト先である、この本屋に彼らが集まっているのはそうした理由だ。  彼らは、夏休みの宿題対策として、店長が必死にこしらえた読書感想文向けおすすめコーナーを華麗に無視すると、店の一番奥にあるマンガコーナーへと直行する。  もはや風物詩とも言える、毎年恒例の光景なので、私はなんとも思わないのだが、諦めることを知らない店長は、いつもその光景を前にどんよりとした顔をしている。  しかし、店長の努力は決して無駄ではない。毎年、八月も終わりに近づくと、駆け込み寺のように子供たちが店長の血と涙と汗の結晶であるそのコーナーに群がるからだ。  私の役目は、平積みされたそれらの本に子供たちの手が伸びるその日まで、埃が積もらぬように毎日ハタキをかけることだ。
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