白橋書店の足跡

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下町情緒溢れる商店街の一画に、古い本屋があった。 『白橋書店』とかかれた看板は薄汚れ、この書店の歴史を物語っている。 ここは地元の老人が毎日集まり、駄弁り会が開かれていた。 その他にも学校帰りの小学生がよる程度で、若者はもっと他の、近代感溢れる書店へ足を運んでいた。 そんな書店に、一人の青年が足を運んだ。 「いらっしゃい」 店主の掠れた声が聞こえ、奥から白髪頭の店主が顔を出した。 軽く会釈をし、並べられた本へ目を向ける。   若者が好みそうな本はあまり置いてないが、それでも面白そうな本は山ほどある。 青年は本を手に取り、立ち読みを始めた。 それは、最近訃報が一時的に世を走り回った有名作家の、マイナーな一冊だ。 商店街を歩く主婦の会話に鳥の鳴き声、少年たちの話し声に、奥で駄弁る老人たちの笑い声。 立ち読みをする青年を余所に、止まることのない生活音の数々。 そこに、ページを捲る音も加わる。 十分ほど読み続けると、そっと本を閉じる。 もとあったところに戻し、次の本を探すために目を動かす。 すると、一冊の本が目についた。 無作為にページを開き、目を通す。 「すいません!」 そう言い、店主を呼ぶ。 「はいはい、何でしょうか」 痩せ気味の店主が出てきた。 そして、手に取った本を彼に向ける。 「すいません。この本って何なんですか?」 その本には【足跡】と言う題名があり、外装は至って普通の本とは変わらない。 しかし、普通ではないのは内容だ。 「ああ、【足跡】ですか。何年も置いてるんですがね、なかなか売れなくて……。そろそろ品替えで替えようと思っとったんです。内容、見ましたか?」 やや黄ばんだ歯を見て笑う。 そして青年は、無言で頷いた。 「やはり、気になりましたか。不思議なことに、その本には手に取った者の、今までの行動が全て書かれているんです。どうです? 買うのは」 ほのぼのとした老店主の言葉は真実で、ページを捲れば今までの青年の生活が、事細かに書かれていた。 さらにページを捲り、本の中の青年も年を重ねていった。  
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