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「確かに面白い本ではありますが、僕が持つべきモノではないと思います。この本には、僕は相応しくないと思いますし」
「そうですか……。まあ、それはお客さんの自由ですからな。それじゃあ、こちらの本などどうですかな」
そう言って、【足跡】を見つけた本棚とは反対の棚から、少し分厚い本を取り出す。
隙間ができ、隣の本がパサッと音を立て寄りかかった。
老店主が手に取ったのは、【白橋書店日記】という本だ。
まさかと思い店主を見ると、気恥ずかしそうに薄い髪を撫でていた。
「お察しの通りかもしれませんが、私の書いた本です。長い間本屋をやってるもんで、暇な時間にコツコツと書いとったんです。値をつけられるモノでも無いので、是非貰って下さい」
差し出された本をしっかりと受け取り、持っていた鞄へそっと入れる。
「ありがとうございます。今日はこれで失礼させてもらいます。また、必ず来ますよ」
再び会釈をし、白橋書店から出た。
後ろからは、未だに老人たちの駄弁り会は続いているようで、話し声が道まで漏れていた。
振り返り、外から白橋書店を見る。
看板はこの書店の、今までの歩みを映しているかのように感じた。
妙な落ち着きを覚えながら、
「ありがとうございました」
呟くようにそう言うと、帰路へ足を進める。
夕日を背中に背負い、影は長く地面に伸びていた。
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