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翌日、青年は同じ時間帯に、同じ様に書店へ足を運んだ。
「いらっしゃい」
と掠れた声は今日も変わらず、老店主の笑顔もいつも通りだ。
店内を眺めれば、綺麗に本は整頓されていた。
昨日の【白橋書店日記】の場所は、違う本が隙間を埋めていた。
【足跡】は勘定をする場所の隣に、ブックスタンドに立てかけられていた。
その違和感のなさを感じながら、青年は別の本を探す。
目についた一冊の本を手に取り、勘定へ向かう。
「すいませーん」
少しすると、老店主が出てきた。
勘定を済ませ、視界の隅に映った【足跡】をみる。
「ああ、そうすればこの書店の足跡が見れるんじゃあないかと思ってそうしたんですわ。残念ながら、空白のページになってしまいましたが」
少しばかり残念そうに言った。
それを聞いて、
「それなら、また本を書いてみればいいですよ。その方が、素敵じゃあないですか」
そう微笑みかける。
「そうですな。何せお客さんは少ない。暇を十分に活かせますな」
そう返し、奥へと引っ込んでいった。
店主の言葉を確かめるため、ブックスタンドに置いたまま【足跡】のページを無作為に開く。
そこには空白のページなどなく、埋め尽くされる程の文字がそこにはあった。
「なんだ、あるじゃあないか」
そう呟くと、本を閉じる。
その本に背を向け、店外へ向かう。
ふと気配を感じ振り返ると、そこには一冊の本がブックスタンドに寄りかかり、こちらを見ていた。
本の題名は【白橋書店の足跡】。
価格は不明。
内容は、商店街の一画にある本屋の歴史。
さて、どうやってあれを買おうかと考えながら、青年は店を後にした。
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