二人の文化祭

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「部長……」 思わず眼を見はった。 六年前と変わらぬ姿で、彼女はそこに立っていた。 「どうした? お化けでもみたような顔して」 そうだ、彼女はもうこの世には…… 「あの……」 私は幻を見ているのか、それともこれは夢なのか。 「ほら、やる事はいっぱいあるんだから、いつまでも突っ立ってないで行くよ!」 「は、はい」 半ば気圧されて、私は彼女についていく。 私は当時やろうとしていた芝居の内容を必死に思い出そうとした。 たしか、東日本大震災でバラバラになった高校生たちが集まり、出来なかった文化祭をやろうとする物語だ。 登場人物が高校生で舞台も学校にするため、小道具や大道具、衣装もあり合わせで出来るので予算を抑えられ、その分稽古に専念できると部長は乗り気だった。 それで買い出しも一人で大丈夫と言い出したのだ。 眼の前を歩く部長を見つめる。 それは記憶にある通りの活発な少女だ。 これが幻でも夢でもいいじゃないか、私は今彼女と一緒の時を過ごしている。 六年前に果たせなかった約束を果たしている。 ただ、それだけで充分だ、充分満ち足りている。 どの店に入り、何を買うのかは彼女が決め、私はひたすら渡された荷物を持ち続けた。 「やっと終わったねぇ~」 二人で荷物をいっぱい抱え、校門まで戻ってきた。 「今日は、ありがとう」 「なに言ってるんですか、おれだって演劇部員です」 「でも、辞めたんでしょ?」 「え?」 「君には続けて欲しかったな、あたしの分まで」 「部長……」 「そして文化祭にやりたかったな、この芝居……」 「やりましょうよッ、みんなを集めて。だって、ほら、文化祭の看板がでているじゃないですか!」 彼女はゆっくりと首を横に振った。 「これはあたしたちの文化祭じゃない」 私の中に焦燥が湧き上がってきた。 「待ってください、おれ、部長に伝えたい事が……」 彼女は私に近づくと、そっと自分の唇で私の口を塞いだ。
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