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翌日、土曜日の午後
あたしは病院へ来ていた。
……お母さん、元気そうでよかった……。
お見舞いが終わったあたしは、母の優しい笑顔を思い返しながら、家に帰ろうとバス停まで歩く。
バス停に着くと
横目にいつもの細道が見えた。
――『待つなよ』
昨日、そう言われたのに……
あたしはいつものベンチに誘われるように歩いて行った。
ここに座るとホッとする。
麻斗君がいたら、もっともっと安心するのに――。
色褪せた背もたれ付きの木製のベンチ。
黒色の鉄で出来た手摺は所々塗装がはがれて、銀色になっていた。
あたしは古びたベンチをそっと撫でで
「ただいま」
心の中で言う。
聞こえるわけはないのに……
「おかえり」
ベンチがそう言ってくれる気がした。
バス停に並ぶプラスチック製の無機質なベンチより
このベンチの方が好きなんだ。
雨と風にさらされながら
誰にも気づかれない場所で、ひっそりと誰かの帰りを待っているかのようなこのベンチが
落ち着くんだ――。
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