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バスが来るまでここで待っていよう。
そう思って、鞄の中から文庫本を取り出した時だった。
視界が陰って、
「待つな、つったろ?」
声が降ってきた。
目を上げると深く澄んだ黒い瞳。
あたしを見降ろす男の人。
今日は来ないって言ってたのに……彼はそこにいた。
「ここに住んでるん?」
「んな訳あるか」
言って、彼が笑う。
やっぱり彼の笑顔は最強。
「ん」
麻斗君は目くばせをして、鞄をどけるように指示する。
紺色のスクバを膝の上に乗せると、一人分開いたいつもの席に腰を下ろし
「後、何分?」
聞いてきた。
あたしたちがここで話をするのは、バスを待っている時間だけ。
その時間はいつもマチマチだった。
「……一時間」
「長っ」
「付き合ってくれなくていいよ?」
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