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プツリと映像が途切れて、現実に戻る。
無意識にピンク色の貝殻を探しているあたしは
なんだか滑稽で、ひどく空しい。
『桜貝は幸せの象徴なんだ――』
夢を追うお兄ちゃんに手渡した桜色の貝殻。
「お父さんも欲しいな」
隣で手を出すお父さんにも、やっと見つけた桜色の貝殻をあげた。
あたしの手元には、汚れた貝と欠けた貝だけが残った。
桜色の貝をあげた人は夢を叶えて、あたしたちから離れていく。
貝を探した女たちを、この場に残して
砂浜に足を取られたあたしたちは、この場所から動く事も逃げる事も出来ない。
手のひらから桜貝が零れ落ちた。
「落としたぞ」
それを麻斗君が拾って、瓶の中に入れてくれる。
冷たい風が吹き抜けて、風が髪に流されて
「……翼?」
目尻に溜まった涙がポタリと落ちた。
「麻斗君……」
あたしは顔を上げて麻斗君を見た。
頬を伝う涙を隠しもせずに、ただ彼を見つめるあたしに
「……何があった?」
彼は見つめ返して、静かに聞く。
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