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麻斗君の体温に溶かされて、あたしの中に眠っていた悲しみが一気に溢れてくる。
「麻斗君、幸せって何かなぁ……」
「……」
誰にも言えなかった。
言いたくなかった本音がホロホロと零れ出る。
「あたし、ずっとね
お父さんの作った家で
お母さんの手料理を食べて
お兄ちゃんのサッカーを応援して
好きな人の傍にいる
そんな幸せを夢見ていたんだ」
あたしが欲しいものは
いつだってちっぽけで、ありふれていて、特別じゃない。
みんなが持っている物。
けれどあたしは、どうしてもそれが欲しかった――……
「けど、あたしの欲しい幸せは、どこにもなくて……
幸せって、どこにあるのかな……
あたしは幸せには、なれないのかな……」
目からポタリと落ちた雫が彼のシャツにシミを作る。
それがジワジワ広がっていく
あたしが彼のシャツを握った時
「そこに俺は……入らない?」
穏やかな声がした。
「え……」
あたしは彼を見つめる。
彼は真っ直ぐにあたしを見つめ返して――
「俺はお前を裏切らないよ」
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