7/8
前へ
/33ページ
次へ
麻斗君の体温に溶かされて、あたしの中に眠っていた悲しみが一気に溢れてくる。 「麻斗君、幸せって何かなぁ……」 「……」 誰にも言えなかった。 言いたくなかった本音がホロホロと零れ出る。 「あたし、ずっとね お父さんの作った家で お母さんの手料理を食べて お兄ちゃんのサッカーを応援して 好きな人の傍にいる そんな幸せを夢見ていたんだ」 あたしが欲しいものは いつだってちっぽけで、ありふれていて、特別じゃない。 みんなが持っている物。 けれどあたしは、どうしてもそれが欲しかった――…… 「けど、あたしの欲しい幸せは、どこにもなくて…… 幸せって、どこにあるのかな…… あたしは幸せには、なれないのかな……」 目からポタリと落ちた雫が彼のシャツにシミを作る。 それがジワジワ広がっていく あたしが彼のシャツを握った時 「そこに俺は……入らない?」 穏やかな声がした。 「え……」 あたしは彼を見つめる。 彼は真っ直ぐにあたしを見つめ返して―― 「俺はお前を裏切らないよ」
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加