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ぼんやりとしていた景色がピントを合わせるように、ギュウと世界が集中した。 帰って来た麻斗君は、右手に買ってきた物を持たせて 「お、似合うな」 笑った。子どもみたいに。 「どういう意味ですか」 「ほのぼのする。お前のリンゴ飴姿は」 「どうせガキって言いたいんでしょ」 「正解」 「んなっ」 「いってー。暴力反対」 言って、麻斗君が笑う。 無邪気な笑顔が可愛くて、ざわめきが少し遠くに聞こえた。 あたしは麻斗君に綿あめを買って、 「甘い。いらない」って付き返されて 綿あめとりんご飴を交互に食べながら 二人で歩いた。 少し歩くと明かりが届かない場所についた。 あたしたちは、石段に座って。 お祭り風景を見る。 浴衣を着た同じ年くらいの女の子。 その横には緊張を隠せない男の子。 恋人同士かな――― それともこれから、かな? 傍目に好き同士だと分かった。 好き同士でお祭りに来れたら、幸せだろうな――。
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