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列車がガタンと音を立てて動き出す。
見送る麻斗君が小さくなっていく。
「……またね」
電車の中から小声で告げると、麻斗君は見えなくなった。
けれど、別れてもまだ麻斗君の香りがする。
……どうして?
キョロキョロと首を動かしてわかった。
あぁ。これだ。
あたしの制服。
抱きしめられて
風を含んで大きく揺れるシャツに頬を寄せて抱きついて
彼の香りが残っていたんだ。
爽やかで、どこか甘いシトラスの香り。
あたしは自分の制服の裾を握りながら、目を瞑り、
今日の事を思いだす。
―――『あたしみたいな想いを正毅もすると思ったら……キツイ』
また吐き出させてくれた。
――『ま。フラれたらいいんじゃね?マサキだっけ?その男』
心の中を軽くしてくれた。
今日、行ってよかったな……。
麻斗君に会えて、よかった――。
流れる景色を見ながら、そんな事を思っていた。
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