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「昔は屋台なんてなくて」 涙で滲んでぼやけて見えた大輪の花を思い出していると、麻斗君が静かに話し出した。 「そうなの?」 あたしは麻斗君を見た。 「そ。神輿を揺らしながら練り歩くだけの祭りだった」 ……そうなんだ。 心の中で頷いた。 「神輿が神社に帰ってきてから、お菓子をやったり、手花火をやったりしてたら 屋台になって、打ち上げ花火になってって、変わっていった」 「詳しいね」 「昔から神輿だけは参加しろって、ばあちゃんがうるさくてな」 「毎年かついでたの?」 「……まぁな。かつげない年もあったけど」 神輿を担ぐ麻斗君。想像するとなんだか可愛くて――。 「笑うな。小学生の時の話だから」 「ふふふ」 「だから笑うなって」 小学生の麻斗君って想像できない。 「お前んとこの祭りは違うの?」 「んーとね。もっと混雑する。大花火大会と一緒だからかなぁ」 街の大イベントだ。 他の県からも沢山人がやってくる日。 「あー。行った事ないわ」 「ほんとに?」 「人混みキライ」 なんとなく、納得。
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