妄想ほど美味しい食べ物はない

親子丼

湯気が上がる黄色の海には焼き目が入った茶色の鶏肉が包まれている。彩りを整えるため添えられた三つ葉は素朴ながらも自らの存在感を示している。出汁によって薄く染められた白米は普段より少しふにゃりとしており、それだけでご飯３杯平らげられそうだ。ふわりと香るカツオだしの匂いはそれだけで食欲がそそられる。
朝から多くの取引相手の会社を駆け巡り心身ともに疲れきった私は疲れを癒すためにこの定食屋に駆け込んだ。長年オフィス街で営業しているこの定食屋はお昼時になるとビジネスマンで溢れておりなかなか席に座れないのだが、今日は早く切り上げたこともあり、私が来店した時は半分ほどしか埋まっていなかった。席数１３席とかなりこじんまりしたお店でランチタイムになると対ビジネスマンの席争奪戦になるのだが、今日は運が良かった。今日は何が何でもここの親子丼を食べてやると意気込んで営業に駆けずり回っていたので、目標は達成したようなものだ。これで午後からの仕事も気合を入れて取り組める。