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「越智の…運命?」
「ああ。だから逝かせてやることにしたんだろうさ。もうヤツを解放してやることに」
「『解放』だなんて、知ったような口をきくな。『殺す』ことが解放かよ?!」
「ああそうさ、そしてあの人たちには、それを決断する権利がある」
俺の胸がギュウッと締め上げられた。
権利――
俺にないモノ。
越智のことについて、俺にはなんの「権利」もない。
「別に法律上のこと言ってるんじゃねぇよ」
アイツがすかさず言う。
「あの人たちは、ずっと息子を見てきたんだ。今日は目を覚ますかも、いや明日こそはって。かすかな希望を繋いで、来る日も来る日も失望して…」
「俺だって願ってた! そうやってずっと傍に居たかった。いつか…いつか越智が目を覚ましてくれるって、俺のところに戻ってくれるって」
瞼がガッと熱を帯びた。
涙が溢れ出す。
「かって…だよ、勝手すぎる。そんなの自分らが、楽になりたかっただけじゃないか、そのために、越智をころすなんて」
「そうかもな」
アイツがひどく穏やかに相槌を打った。
「あの人たちは楽になりたかったし、息子を楽にしてやりたかったし、それにお前のことも、もう解放してやりたかったんだ」
「おれ…?」
「ああ。お前のことがずっと気になってたってさ。何度も連絡を取ろうかと思ってたって。でもしなかったのは、もうお前に越智のことで苦しんでほしくなかったからだって」
「そんな…そんなの」
「ああ、勝手な言い分だよな。お前は『越智の傍に居たかった』んだから。けど、そんなことも、あの人たちは分ってたさ」
そうまくし立ててから、アイツはひとつ溜息をつくと、ポケットに指を入れる。
そして「これを預かった」と、鈍色の小さなものを俺に見せた。
「……それ、越智の」
結婚指輪。
俺の頭に、またしてもカッと血が上る。
「なんで、お前が……」
声が上ずった。
「あの人らが、『お前に返してくれ』って。『息子もそうしたいだろう』からってさ」
「なんだよ、それっ……」
「お前を束縛し続けたくない、前に進んでほしい、息子はそう思ってるはずだって。自分たちの息子は、そういう優しい人間だからって」
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