越智と俺

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 *  越智が「あんなこと」になった時。  職場から、真っ先に連絡が来たのは俺のところだった。緊急連絡先が俺の番号になっていたんだ。 「僕の連絡先、君の携帯にしておいたからね」と越智から報告されて、 「『配偶者』やら『家族』やらじゃないとマズいんじゃない?」と、俺は訊き返した。  すると越智は「僕にとっては、君は『家族』なんだけどな」と瞳を翳らせた。  その後は「もうさっさと養子縁組しちゃおうか」となり、でもやっぱり「万一結婚できるようになった時、何かと困るかもしれないよな」と話は終わってしまった。いつもと同じに。  だけど。  あの時、さっさと「そう」しておけば良かったのだ。  越智が運ばれた病院に飛んで行き、病室に入ろうとしたところで看護師に止められた。 「家族以外は面会謝絶だ」と。  俺は越智の実家に連絡を入れ、ヤツの親が来るまで病室の外で、ただじっと待ち続けるしかなかった。  両親が到着すると、医者は彼らを部屋に呼び入れて容体の説明をした。  俺は蚊帳の外だった。    越智の親は、俺たちが一緒に住んでいることは知っていたし、ふたり連れ立って旅行やなんかに行っていることも知っていた。  でも、彼らは俺たちの「本当」のことは、何も知らなかった。  「自分がゲイだ」ということを、越智は親に伝えてはいなかったのだ。  そのことに傷つきはしなかった。カムアウトは、本当にデリケートで難しい問題だ。  俺だって、もし肉親がいたら、そして彼らとの関係が良好だったなら、きっと簡単には打ち明けられなかっただろうと思うから。  彼らを失望させたくなくて。
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