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そしてまた、俺は口づけられる。
ぶつかり合った腰から甘く爛れる痺れが走って、その刺激をやるせなく受け止めながら、俺は自らを嫌悪した。
「でもやっぱり、お前は自分を許さないんだろうな。オレのキスに勃起する自分を憎むんだろう? だったら、何もかもみんな、オレのせいにすればいい。これまでのことも、今からもずっと、全部オレのせいに」
「なに……いってんだ」
「オレが悪いんだよ。お前に惚れまくって、酔わせて襲って。気持ちとは関係なく、もう身体が離れられないようにヤラシイことしまくってる、オレが全部悪いんだ。だからお前は、オレに抱かれて感じたっていいんだ、しょうがねえんだよ。お前のせいじゃないんだ」
「なんだよ、それ? カッコつけてるつもりかよ……」
泣き笑いになりながら、俺は思いっきりバカにして言ってやる。
「あのな、オレはさ、『越智』に逢って、一度ちゃんと言ってやろうって、ずっと思ってた。だからヤツを探してた」
アイツがひどく真面目くさった声で言う。
「ヤツがいろんな管につながれてる、その枕元で言ってやった。『越智、これからもずっと目を覚ます気がねえんなら、オレがお前の《つれ合い》を貰うからな』って」
身体からアイツの腕がゆっくりと解かれていく。
「なあ……お前さ、その指輪、外す気ないんだろう?」
そう口にしてアイツは、俺の薬指を顎でしゃくった。
「だったら、この指輪はこれから、オレがはめるぜ」
そしてアイツは、越智の指輪を自分の薬指へと滑らせる。
「いいか、オレはヤツから、この『バトン』を受け取ったんだからな。お前もじきに気づく。ヤツを愛してもオレを愛しても、それは結局は同じことなんだって。それが越智の望みだってことに」
そう言って、アイツは薬指の越智の指輪に小さく口づけた。
「でも、別に気づかなくてもいい。もういいんだ。どっちだって」
独り言のようにこう付け足すと、アイツは俺の肩を抱いた。
そして、「じゃあ、行くか」と歩き出す。
だから、俺も引きずられるようにして歩き出した。
何もかも、みんなコイツのせいにして。
今は、全部コイツのせいにして――
(了)
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