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越智と俺
「……さっきさ、越智の家族から電話があったんだ」
この話をしようかすまいか。
ずっと迷い続けていたけど、ついに俺は、ポツリとそう洩らしてしまった。
でもアイツは、フライドポテトに指を伸ばしながら、「ふうん」と、ひどい生返事を寄こした。
俺とアイツは、バーガーショップの窓際の席で向かい合い、それぞれにコーヒーとコーラを飲んでいた。
土曜の遅い朝メシに、道行く人々を眺めやりなら、しょっぱいポテトをダラダラと摘まむのは、結構オツだと思う。
さんざんセックスをした後だ。腹も減ってて、こんな脂っこいものにも食指が動く。
越智は俺の「旦那」だった。
いや、別にホントに「結婚」してたわけじゃない。
残念ながら、まだこの国じゃヤローとヤローは結婚できない。
でも気持ちの上では、俺たちは結婚していた。
指輪も買ったし、旅先のカナダのゲイチャーチで式も挙げた。
俺たちに取っちゃ、それは「新婚旅行」だった。
いずれは養子縁組して戸籍上も家族になろうとか思っていたし、越智の方は俺たちで身寄りのない子の里親にでもなったらどうか……なんてことまで考えていたようだった。
越智は家裁の調査官補で、児童福祉に関心が高かった。
そんなこともみんな知っているクセして。
アイツは、今しがたの俺の言葉を「ふうん」の一言で流しやがった。
だったら、もう何も教えてやるもんかと、俺もめちゃめちゃ腹が立った。
ぬるくなったコーヒーを一息に胃に流し込んで、紙ナプキンで口を拭い、俺は立ち上がる。
そしてそのまま、店を出ていった。
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