Prologue Side F

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Prologue Side F

 ある日の昼下がり。せっかくの休みなので娘と公園に向かっていると、公民館の前に人混みが出来ていた。手を引く娘が立ち止まり指をさす。 「ママ、あれ何?」 「えぇっとね、文化祭だって」  近くに立っていた幟(のぼり)に書かれていた事を娘に伝える。どうやら、自治会の文化祭が行われていたようだ。そういえば、随分前に回覧板が回ってきたが今日だったのか。 「ぶんかさい?」 「うん、お祭り」 「りんごあめある?」 「うーん、そういうのは無いかなぁ」  就学前の幼児がお祭りといえば華やかな出店か、にぎにぎしい神輿のイメージだろう。勿論、学校の文化祭となれば前者のイメージに近いが、あってもせいぜい豚汁くらいのものだろう。果たして回ってきたチラシには何と書いてあっただろうか。思い出そうとして少し頭を捻ってみたが、結局思い出せなかった。どちらにせよ、娘が興味をひくようなものは無いだろう。 運営している方々には悪いが、この度はスルーさせていただこうと心に決めて歩き出―― 「おや、みぃちゃん。寄ってくかい?」  せなかった。よく知る近所のおばさんに呼び止められてしまった。恐らく運営に携わっているのだろう。おばさんは娘と視線を同じにして問いかける。世話になった人だけに、適当な理由を見繕うこともできずに娘の返事を促す。 「どうしよっか?」  この場で一番乗り気でないのは間違いなくわたしだろう。  おばさんは来てほしいだろうし、娘はどんなモノなのか今一つ理解していないに違いない。  最悪、行ってすぐ帰れば良いのだが、ぐずるのは勘弁だ。縋るような思いで返答を待つ。 「行ってみたい」  だが、往々にして願いというのは届かないものなのだ。
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