贖罪

11/12
前へ
/12ページ
次へ
本屋さんの目の前の、ちょうど木の陰になっているベンチに腰をかけ、購入したばかりの本を手にとった。 さぁ、と生暖かい風が青々と生い茂った木々を揺らしていく。 僕は、「告白」という名のついた最後の短編を読み進める。 主人公の少女、理子がクラスメートの井上君に恋に落ちる話だった。 井上って僕と同じ苗字じゃん、なんて小さく笑う。 『 「井上君、私はずっと貴方のことが好きでした」 固まってしまった井上君の前に、理子が恋心を告げた。 』 この一文を目にしたとき、頭をガーンと殴られたような強い衝撃を受けた。 理子……。 佐倉、理子。 欠けていたピースが埋まるように、佐倉理子という名前が僕の胸にこだました。 彼女が最終章を破り捨てた理由、それは…… 『 「ありがとう」 井上君は理子を腕の中に抱き寄せて、桜の樹の下、二人は口づけを交わした。 』 佐倉、 なんで死んじゃったんだよ……。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加