贖罪

5/12
前へ
/12ページ
次へ
僕は彼女から目を逸らし、窓の外に目を向ける。空は重々しい灰色の雲で覆われていた。 放課後、こっそりと佐倉の引き出しに返しておけばいいや。なんて、僕は能天気なことを考えていた。 もう、彼女と二度と会えなくなるなんて思いもせずに……。 ―――ガタン 彼女が椅子から立ち上がり、教科書の入った通学カバンを振り回して、僕の頭を殴る。 「痛っ」 一瞬何が起こったのかわからなかった。目の奥がチカチカして、ズキズキとした痛みが僕を襲った。 なんで? 彼女が僕の手から本を取り返し、ページをビリビリと引き裂いた。紙切れになった一部のページを、彼女は自らのポケットの中へ押し込んでいる。 ぐにゃりと歪んだ視界の中で、彼女は大粒の涙を瞳に溜めて僕を見ていた。 なんで? 呆然としているクラスメートの前で、彼女はそのまま何も持たずに走って出て行った。 それっきり、佐倉は二度と教室に戻ってこなかった。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加