現れた裏

5/10
前へ
/15ページ
次へ
 小さな星が数個、儚く散らばる夜空を仰ぎ、虎谷は黙々と歩く。頭には高校受験時のハチマキと、手には弟のバットを入れたケース。目指すのは職場であるブックス真理谷。  彼はたったひとりで、犯人を取り押さえるつもりだ。 (どんなモンスターだって、人間には敵わなねぇって)  腕力にもそれなりの自信はある。書籍を裏返すだけのか弱そうなモンスターなど、楽勝だと己に言い聞かせる虎谷である。  カードキーが導入されたビルの出入口で、危うく命綱のそれを落とし、慌てて探すアクシデントはあったものの、虎谷はなんとか店内へ入り込む。  勝手知ったる職場は当然ながら真っ暗。手探りで灯りをつけようとするが、なぜかいつもの位置にそれがない。 (おっかしいなぁ。だいたいこの辺なのに)  どんなに探っても、いつもの突起群が指先に触れてくれない。業を煮やし、虎谷は暗闇のまま、書籍売り場を歩くことにした。 (誰かいたら、なんぼなんでもわかるって)  闇に目が馴れ、シャッターの隙間からの仄かな明かりに、うっすらと書棚が浮かぶ。明かりの消えたビル群か、あるいは墓石のようで、虎谷は夜目に浮かぶ書棚が不気味で嫌いだ。だから閉店の時間も嫌いだ。有河とも、一時的にお別れのあの時間は、毎日憂鬱なのだ。  懐中電灯をつけ、歩き回りながら虎谷は毒づく。 (なるべく有河さんと一緒にいたいってのに、一時閉店とか、マジありえねーし)
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加